東京高等裁判所 平成10年(行ケ)384号 判決 2000年5月17日
原告 株式会社ブリヂストン
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁理士 B
同 C
被告 特許庁長官 D
指定代理人 E
同 F
同 G
同 H
主文
特許庁が、平成10年審判第3052号事件について、平成10年10月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和60年12月23日、名称を「透明膜および該膜を有する積層物」とする発明につき特許出願をした(特願昭60-287987号)が、平成10年2月3日に拒絶査定を受けたので、同年3月4日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第3052号事件として審理したうえ、同年10月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年11月11日、原告に送達された。
2 明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨
エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有することを特徴とする透明膜。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明が、昭和60年11月11日に日本国内において頒布された刊行物である特開昭60-226589号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明と認められ、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないとした。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願第1発明の要旨の認定、引用例の記載をそのまま摘記した部分(審決書4頁11行~8頁7行)の認定は認める。
審決は、引用例の記載事項を誤認して、本願第1発明と引用例記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、さらに、相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果、本願第1発明が引用例記載の発明であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
(1) 審決は、「引用例には、エチレン酢酸ビニル重合体に、多官能性架橋助剤として、トリアリルイソシアヌレートを用いる・・・発明が記載され、これは、本願第1発明のエチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)に、一致するものであり、」(審決書8頁10~15行)と認定したが、それは誤りである。
(2) すなわち、引用例には、「本発明に用いられる架橋剤としては加熱架橋する場合は有機過酸化物が適当であり」(甲第4号証3頁左上欄9~10行)、「本発明による封止材料を光で架橋させる場合には過酸化物にかえて光増感剤がEVA100重量部あたり5重量部以下単独又は混合して用いられる。」(同頁右下欄14~16行)と記載されているとおり、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を架橋させる材料(架橋剤)としては、有機過酸化物あるいは光増感剤が挙げられているのであって、トリアリルイソシアヌレートは「架橋剤」ではなく「架橋助剤」として記載されているにすぎない。
そして、昭和52年4月1日発行の「プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧」(以下「プラスチック実用便覧」という。)に、架橋助剤について、「飽和または低不飽和高分子をペルオキシド架橋する場合、ポリマーのラジカル切断が生起するものがある。これを抑制し、架橋効果を向上させる目的で、いわゆる架橋助剤が添加されている。」(乙第3号証890頁4~8行)と記載されているように、架橋助剤は、ポリマーのラジカル切断を抑制するために使用されるものであって、架橋剤そのものではない。
この点につき、被告は、プラスチック実用便覧に、EPR(エチレン-プロピレンゴム)のペルオキシド架橋の際に用いるビニル系モノマー化合物等の架橋助剤が、架橋と共に重合体の間に組み込まれ架橋重合体の成分となり、EPRと架橋助剤の三元共重合体架橋物となるものであること(すなわち、ビニル系モノマー化合物が架橋剤として作用すること)が、各架橋助剤の反応機構とともに示されていると主張する。
しかしながら、プラスチック実用便覧には、「ビニールモノマーの反応機構は次のように考えられている。」(乙第3号証907頁)と記載されているように、そこに記載された架橋剤の機能を示す反応機構は確実なものではない。のみならず、トリアリルイソシアヌレートはアリル系であって反応性は極めて低いものであり、他方、ポリマーについては、プラスチック実用便覧に、ペルオキシドにより架橋するものと分解するものがあることが記載されている(同号証888頁5~6行、表10・1)から、結局、架橋助剤(モノマー)により、またポリマーによって反応性は様々に異なるものであるというべきところ、プラスチック実用便覧に示された例には、架橋助剤(モノマー)がトリアリルイソシアヌレートのものはなく、さらに、そこに示された反応機構も、EVAとは異なるポリマーに係るものであって、技術常識によっても、トリアリルイソシアヌレートとEVAとの反応機構は自明といえるものではない。
したがって、引用例に、EVAと架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートが記載されていても、トリアリルイソシアヌレートが、直ちに架橋剤として使用できると考えることはできない。
さらに、被告は、特開昭49-128063号公報(乙第6号証)、特開昭51-92855号公報(乙第7号証)及び特開昭58-138742号公報(乙第8号証)を引用して、トリアリルイソシアヌレートが、高分子化合物、特にEVAのペルオキシド架橋の際の架橋助剤として周知であると主張するが、これらの公開公報の特許請求の範囲に記載された技術が周知技術であるとする根拠はなく、EVAと架橋助剤であるトリアリルイソシアヌレートの実際の組合せの記載についても乏しい。
(3) また、引用例の実施例記載の方法に従って、EVAにトリアリルイソシアヌレートを添加し、成形しても、各成分を単にブレンドする方法(甲第4号証4頁左下欄3~9行)によっては、トリアリルイソシアヌレートがEVA中に微細に分散されることはなく、さらに、シート形成後に加熱されても、トリアリルイソシアヌレートとEVAとの反応は実質的に起こらないから、結局、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を得ることはできない。
平成11年4月20日付実験報告書(甲第5号証)記載のとおり、原告従業員Iが同年3月19日に行った実験(以下「I第1実験」という。)において、引用例の実施例1に記載された方法(ただし、組成は、EVA100重量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(ペルオキシド)2重量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(接着促進剤)1重量部及びトリアリルイソシアヌレート3重量部)でシートを作製し、シートから未反応のトリアリルイソシアヌレートを除去するためアセトン抽出を行った後、赤外線吸光分析法により分析した結果、トリアリルイソシアヌレートの特性吸収が確認できず(トリアリルイソシアヌレートが未反応であるため、全部アセトンにより抽出されたことを意味する。)、トリアリルイソシアヌレートがEVAと反応していないことが確認されたこと、さらに、同年9月20日付実験報告書(甲第6号証)記載のとおり、同人が同年7月2日に行った実験(以下「I第2実験」という。)において、上記実施例1の「さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋を行ない、」(甲第4号証4頁左下欄14~15行)との記載に従って、実施例1に記載された方法(ただし、組成は、EVA100重量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,3-トリメチルシクロヘキサン(ペルオキシド)2重量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5重量部及びトリアリルイソシアヌレート3重量部)で作製したシートに、150℃、30分間の加熱処理を施した場合であっても、上記と同様に、トリアリルイソシアヌレートがEVAと反応していないことが確認されたことに照らしても、引用例において、EVATが得られていないことは明らかである。
被告は、特開昭57-196747号公報(乙第4号証)及び特開昭58-60645号公報(乙第5号証)を挙げて、EVAと架橋剤の系のロールミルによる混合条件は、80~100℃とすることが技術常識であり、I第1、第2実験は、上記の技術常識を逸脱したものであって信憑性に乏しいと主張するが、上記各公報において示されたEVAと架橋剤の配合あるいは調製方法は、単に混合方法を示すに止まっており、反応する程度に微分散を行わせる程の処理方法を開示しているものではない。また、該各公報は、EVATを明示又は示唆していないのみならず、そこに記載された混合条件(80~100℃とすること)が、EVATの合成法として周知であるというわけでもない。
(4) したがって、引用例に、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)が記載されているということは到底できない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(1) 審決は、「本願第1発明のものが、『ヘイズ値0.6以下を有することを特徴とする透明膜である』としているのに対し、引用例にはこの点が明示されていない点」(審決書8頁16~19行)を、本願第1発明と引用例記載の発明との「一応の相違点」としたうえ、この点について、「本願第一発明のへイズ値0.6以下を有することとは、実質的にガラスと同程度の透明性とするということであり、またそれはトリアリルイソシアヌレートをエチレン、酢酸ビニルとともに用いることによって、得られるものであることが明らかである。とすると、ガラスをも対象とし、透明性を技術課題としている、しかも、本願第1発明と同一の組成であるトリアリルイソシアヌレートをエチレン、酢酸ビニルとともに用いる引用例記載の発明と実質的差異はなく、ヘイズ値の記載の明示の有無だけで、別発明とすることはできない。したがって、上記一応の相違点は実質的な相違点とはいえず、」(同9頁18行~10頁11行)と判断したが、それは誤りである。
(2) すなわち、引用例において、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を得ることができないことは、上記1で述べたとおりであり、EVATを得ることができない以上、へイズ値0.6以下を有する透明膜を得ることもできない。
このことは、平成11年4月20日付実験報告書(甲第5号証)記載のとおり、I第1実験において、引用例の実施例1に記載された方法で作製されたシートのヘイズ値が2.0であったことに照らしても、明らかである。
(3) 被告は、引用例に、本願第1発明のものと同一の成分組成、配合割合、製造方法により透明膜を製造する方法及びその製品自体が記載されているに等しいから、引用例には、ヘイズ値0.6以下を示す物が含まれると主張する。
しかしながら、引用例には、発明の一般的説明部分に例示された8種類の多官能架橋助剤の1つにトリアリルイソシアヌレートが記載されているにすぎない。
また、引用例の実施例1に記載された製造方法においては、シート作成前は単にブレンド処理するのみで、次工程のシート作成の段階で混練するものである。これに対し、本願明細書の実施例1に記載された製造方法は、シート作成の前に約80℃に加熱したロールミルにて充分に混合し、その後、プレス工程でシート作成を行っている。このように、本願第1発明のものについては、シート作製前の段階でEVATの調製まで考慮した十分な混練処理を行うことにより、低ヘイズのEVATの透明膜を作成できるのである。
この点につき、被告は、引用例の「有機過酸化物は通常ポリマーに対し押出機、ロールミル等で混練される」(甲第4号証3頁左下欄1~3行)等の記載部分を引用し、かつ、「プラスチック活用ノート」(乙第12号証)の記載を示して、EVA樹脂の融点が65~90℃であることは周知事項であるとしたうえ、引用例には、成膜前に材料をEVAの融点(65~90℃)以上で加熱溶融し、押出機、ロールミルで混練した後、成膜することが記載されているに等しいと主張する。しかし、上記「プラスチック活用ノート」のEVA樹脂の融点が65~90℃であるという記載は、組成や分子量等によって幅のある融点の範囲を示し、その温度範囲以上であれば溶融状態が作り出され、混練、成形等が可能であることを示しているにすぎず、常にその温度範囲で混練等が行われることを意味するものではない。
したがって、引用例に、本願第1発明のものと同一の成分組成、配合割合、製造方法により透明膜を製造する方法及びその製品自体が記載されているに等しいとの被告の主張は誤りである。
第4被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 引用例には、「本発明はEVA系のこれらの欠点を大巾に改良したものであり、EVAに適量の架橋剤又は光増感剤、さらには多官能架橋助剤、ビニルモノマー、シランカップリング剤等を加えた組成物から成る。本発明による組成物はEVAの融点以上の温度で加熱架橋することにより透明性にすぐれ、機械的強度が大きいものである。」(甲第4号証2頁右下欄4~10行)、「多官能架橋助剤としては・・・トリアリルイソシアヌレート・・・等の1種又は2種以上の混合物が、・・・用いられる。」(同号証3頁右下欄4~11行)と記載されていることから、引用例にはエチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)が記載されていることは明らかである。
原告は、引用例には、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を架橋させる架橋剤としては、有機過酸化物あるいは光増感剤が挙げられており、トリアリルイソシアヌレートは「架橋剤」ではなく「架橋助剤」として記載されているにすぎないとしたうえ、プラスチック実用便覧の「飽和または低不飽和高分子をペルオキシド架橋する場合、ポリマーのラジカル切断が生起するものがある。これを抑制し、架橋効果を向上させる目的で、いわゆる架橋助剤が添加されている。」(乙第3号証890頁4~8行)との記載を引用して、架橋助剤は、ポリマーのラジカル切断を抑制するために使用されるものであって、架橋剤そのものではないと主張する。
しかしながら、プラスチック実用便覧には、該記載に加え、EPR(エチレン-プロピレンゴム)のペルオキシド架橋の際に用いる架橋助剤(オキシム化合物、マレイミド系化合物、ビニル系モノマー化合物、なお、トリアリルイソシアヌレートはビニル系モノマー化合物に属するものである。)が、架橋と共に重合体の間に組み込まれ架橋重合体の成分となり、EPRと架橋助剤の三元共重合体架橋物となるものであることが、各架橋助剤の反応機構とともに示されている(乙第3号証901~908頁)。そして、特開昭49-128063号公報(乙第6号証)、特開昭51-92855号公報(乙第7号証)及び特開昭58-138742号公報(乙第8号証)に記載されているように、トリアリルイソシアヌレートは、高分子化合物、特にEVAのペルオキシド架橋の際の架橋助剤として周知であり、さらに、トリアリルイソシアヌレートに不飽和炭化水素が3個存在することから、これがEVAのなかに橋かけ成分として組み込まれることは、当業者の技術常識から明らかである。したがって、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)が引用例に記載されていることは明白である。
この点につき、原告は、プラスチック実用便覧に「・・・考えられている。」と記載されているから、そこに記載された反応機構は確実なものではないとし、さらに、アリル系のトリアリルイソシアヌレートの反応性が低いこと、プラスチック実用便覧において示された反応機構の例が、ポリマーを、EVAではなく、エチレン-プロピレンゴム(EPR)とするものであること等を挙げて、技術常識によっても、トリアリルイソシアヌレートとEVAとの反応機構は自明といえるものではないと主張する。
しかしながら、プラスチック実用便覧に記載された反応機構は、単なる推測ではなく、架橋助剤の添加による機械的強度の変化等の具体的裏付けに基づく根拠のあるものである。また、EVAとEPRがペルオキシド架橋の反応機構として同等なものとなることは、当業者にとって技術常識であり、プラスチック実用便覧に記載された、EVAのペルオキシド架橋におけるトリアリルシアヌレート(トリアリルイソシアヌレートの異性体であって、アリル系化合物である。)を架橋助剤に用いた場合の引張り強さの変化(乙第3号証910~911頁、912頁図10・18)は、その裏付けとなるものである。さらに、アリル系化合物の反応性が低いことが、反応性の架橋助剤としての有効性を疑わせるものでないことは、上記プラスチック実用便覧記載のトリアリルシアヌレートを架橋助剤に用いた例や、上記特開昭49-128063号公報(乙第6号証)、特開昭51-92855号公報(乙第7号証)及び特開昭58-138742号公報(乙第8号証)に記載されたトリアリルイソシアヌレートを架橋助剤に用いた例などから見て明らかである。
(2) 原告は、I第1、第2実験の結果に基づき、引用例の実施例記載の方法に従って、EVAにトリアリルイソシアヌレートを添加し、成形しても、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を得ることはできないとも主張する。
しかしながら、I第1、第2実験は、引用例に記載されたもののうち、実施例1に沿った実験にすぎないものであって、これが、直ちに、引用例に、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)が記載されていないことの根拠とはなり得ないものである。のみならず、引用例の実施例1にブレンド条件は記載されていないものの、本願出願前において、引用例と同様の、EVAと架橋剤の系のロールミルによる混合条件は、特開昭57196747号公報(乙第4号証)及び特開昭58-60645号公報(乙第5号証)に示されているように、80~100℃とすることが技術常識であり、引用例の実施例1における混練も、このようなEVAの溶融条件でなされるのが技術常識である。しかるに、I第1実験は、「引用例の方法」として「配合物の混合を常温で行った」(甲第5号証3頁3行)ものであり、I】第2実験は、「引用例の方法」として「配合物の混合を30℃にてロールミルで10分間混合で行った」(甲第6号証3頁1~2行)ものであるから、I第1、第2実験は、上記の技術常識を逸脱したものであって、その結果は、いずれも信憑性に乏しいものといわざるを得ない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 引用例には、エチレン、酢酸ビニル、トリアリルイソシアヌレートの架橋物からなる透明膜である点で本願第1発明と実質的に一致する発明が記載されているだけでなく、その成分の配合割合や透明膜の製造方法についての記載においても、本願第1発明のものと一致している。
すなわち、成分の配合割合について、本願第1発明は、EVAの酢酸ビニル含有率が15~50重量%であり(甲第2号証6欄32~33行)、EVAに対するトリアリルイソシアヌレートの割合が、EVA100重量部に対しトリアリルイソシアヌレート0.5~20重量部である(同欄41~44行)のに対し、引用例には、EVAの酢酸ビニル含量を5~50%とし(甲第4号証2頁右下欄19~20行)、EVAに対するトリアリルイソシアヌレートの割合を、EVA100重量部に対しトリアリルイソシアヌレート0.1~10重量部とする(同号証3頁右上欄20行、右下欄7~10行)ことが記載されており、いずれの割合も重複するものである。また、製造方法については、引用例に、「有機過酸化物は通常ポリマーに対し押出機、ロールミル等で混練される」(甲第4号証3頁左下欄1~3行)、「本発明の封止用組成物はEVA樹脂と上述の添加剤とを混合し、押出機、ロール等で混練された後カレンダー、ロール、Tダイ押出、インフレーション等の成膜法により所定の形状に成膜される。」(同号証4頁右上欄10~13行)、「透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋を行ない、」(同頁左下欄14~15行)との各記載があるところ、昭和50年1月20日第2版第4刷発行の大阪市立工業研究所プラスチック課編纂「実用プラスチック用語辞典」に記載されているとおり、プラスチックの分野において「混練」とは、「プラスチック材料に数種の添加剤を混ぜ合わせる場合、材料を加熱溶融させると同時にせん断力を与え、添加剤を材料内部に均一に分散させること」(乙第11号証183頁右欄16~18行)をいい、また、カレンダー法、押出法等の成膜法もその前処理として材料を加熱溶融させ、流動性のある混合物とすることを要する(乙第13、第14号証)ものであり、かつ、昭和62年2月15日9版発行の「プラスチックス」編集部編「プラスチック活用ノート」(乙第12号証)に示されているとおり、EVA樹脂の融点が65~90℃であることは周知事項であるから、結局、引用例には、上記成分の材料を、成膜前にEVAの融点(65~90℃)以上で加熱溶融し、押出機、ロール(ロールミルに相当する。)で混練した後、カレンダー、ロール、Tダイ押出等で成膜し、その後透明化するために架橋処理する方法と、その結果として得られる透明膜も記載されているに等しいということができる。
しかして、このように、引用例には、本願第1発明のものと同一の成分組成、配合割合、製造方法により透明膜を製造する方法及びその製品自体が記載されているに等しく、同じ成分組成、配合比、製法で製造された物質であれば、得られる物性も同じであるという化学分野における常識からすれば、引用例には、ヘイズ値0.6以下を示す物が含まれるといえるのであり、結局、本願第1発明は、引用例に開示された材料のうちトリアリルイソシアヌレートを含むものについて実施して得られた透明膜のヘイズ値が0.6以下であることを単に確認したものにすぎない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 引用例に、「本発明はEVA系のこれらの欠点を大巾に改良したものであり、EVAに適量の架橋剤又は光増感剤、さらには多官能架橋助剤、ビニルモノマー、シランカップリング剤等を加えた組成物から成る。本発明による組成物はEVAの融点以上の温度で加熱架橋することにより透明性にすぐれ、機械的強度が大きいものである。また、カレンダー、押出、インフレーション法などの成膜法により成膜されたフィルム、シートは貯安性が大であり、製造後通常の室温、湿度化で貯蔵された場合被着体との接着力低下もほとんどみとめられないほど極めてすぐれた性質を有し、液晶素子、太陽電池、エレクトロルミネッセンスをはじめ各種プラズマディプレイ電子材料の封止及びガラス、金属、プラスチックス相互間の接着に有用である。」(審決書6頁14行~7頁8行)との記載、及び「多官能架橋助剤としてはトリメチロールブロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等のアクリル、メタクリル酸エステル酸エステルまたアリル基含有化合物としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の1種または2種以上の混合物が・・・用いられる。」(同7頁17行~8頁4行)との記載があることは当事者間に争いがなく、さらに、引用例(甲第4号証)には、「本発明に用いられる架橋剤としては加熱架橋する場合は有機過酸化物が適当であり、成膜加工温度、架橋温度、貯安性等を考慮してえらばれる。使用可能な過酸化物としては、例えば2,5-ジメチルヘキサン2,5-ジハイドロパーオキサイド;・・・;ジクミルパーオキサイド;・・・などが挙げられる。」(同号証3頁左上欄9行~右上欄18行)との記載、「本発明の封止用組成物はEVA樹脂と上述の添加剤とを混合し、押出機、ロール等で混練された後カレンダー、ロール、Tダイ押出、インフレーション等の成膜法により所定の形状に成膜される。」(同号証4頁右上欄10~13行)との記載、及び「実施例1」として、「エチレン-酢酸ビニル共重合体・・・100部、ジクミルパーオキサイド1部及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(注、接着促進剤、同頁左上欄6~9行)0.5部をブレンドし、押出機又はカレンダー法により0.4m/m厚の両面エンボスシート(幅900m/m)を作成した。・・・さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋を行ない、透明でかつ白板ガラス、ステンレス板とも強固に接着したモジュールを得た。」(同頁左下欄1~17行)との記載がある。
これらの各記載によれば、引用例には、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)に、過酸化物(注、パーオキサイド、ペルオキシドとも称される。)からなる架橋剤、及び多官能架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを加えた組成物を、押出機、ロール等で混練した後に成膜し、成膜されたシートを加熱架橋して透明膜を製造する方法、及び該透明膜が記載されているものと認められる(ただし、実施例1自体は、架橋助剤を用いない例である。)。しかして、被告は、引用例に、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)が記載されていると主張するので、その当否につき検討する。
(2) プラスチック実用便覧(乙第3号証)には、「飽和または低不飽和高分子をペルオキシド架橋する場合、ポリマーのラジカル切断が生起するものがある。これを抑制し、架橋効果を向上させる目的で、いわゆる架橋助剤が添加されている。」(同号証890頁3~8行)との記載、「オキシム化合物を架橋助剤としたEPR(注、エチレン-プロピレンゴム)のペルオキシド架橋」として、「EPRをペルオキシドで架橋する場合、オキシム化合物を添加すると硫黄を添加する場合と同様にペルオキシドの架橋効果を助長する。その添加量はDCP(注、ジクミルペルオキシド)の場合モル比1.0までは架橋したEPRの物性は向上するが、それ以上加えても効果はあまりない。P-キノンジオキシム(以下GMと略す)よりもP-P′ジベンゾイルキノンジオキシム(以下DGMと略す)の方が架橋効果が大である。GMの反応機構は次のように考えられている。」(同号証901頁)との記載及び反応機構としての反応式の記載(同号証901~904頁)、「マレイミド系化合物を架橋助剤としたEPR、EPT(注、エチレン-プロピレン三元重合体)のペルオキシド架橋」として、「EPRをペルオキシドで架橋する場合、硫黄、オキシム化合物の代わりにマレイミド化合物を添加すると、同様にペルオキシドの架橋効果を助長する。効果の大きさはNN'橋において、トリアリルシアヌレート(TAC)の添加量と引張り強さの関係を図10・18に示す。」(同号証910~911行)との記載があって、図10・18(同号証912頁)には、同一架橋条件(150℃×10分)の下において、ペルオキシド架橋剤(DCP)の添加量が同一の場合に、架橋助剤(TAC)の添加の有無又は添加量の相違によって、引張り強さに変化が生じることが示されている。
しかして、反応機構としての反応式の記載を含むこれらの各記載によれば、プラスチック実用便覧には、飽和または低不飽和高分子をペルオキシド架橋する際に、架橋助剤を用いた場合、ペルオキシド架橋剤によってラジカルが生起した高分子の部位と、架橋助剤の官能基部分が反応して高分子と架橋助剤とが結合し、架橋助剤が多官能基からなる場合には、架橋助剤が高分子間に入った形の架橋結合を形成することにより、高分子のラジカル切断を抑制し、架橋効果を向上させるものであることが記載されており、しかも、多官能基からなる架橋助剤のこの架橋効果の向上の作用は、前示架橋助剤を異にする3種類のEPR、EPTのペルオキシド架橋につき、共通の反応機構に基づくものとして記載されているだけでなく、反応機構にまでは言及されていないものの、架橋助剤をトリアリルシアヌレートとするEVAのペルオキシド架橋においても同様の作用効果を奏するとして記載されていることから見て、一般的で、かつ、相当程度の確実性を有するものとして記載されていることは明らかである。
(3) 特開昭49-128063号公報(乙第6号証)には、「エチレン重合体またはその共重合体に発泡剤、架橋剤及び架橋助剤としてトリアリルシアヌレート又はトリアリルイソシアヌレートの1種又は両種を混合し、これを加熱して架橋発泡させることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法」(同号証特許請求の範囲)の発明が記載され、その発明の詳細な説明に、「即ちエチレン重合体、又は共重合体に、架橋剤、架橋助剤と共に発泡剤を添加して発泡せしめると、先ずポリマー分子間に架橋結合が生成するが、架橋助剤を併用すれば、均一な架橋が達成され、この架橋に架橋助剤も関与し架橋剤のみを添加した通常の結合方式とは変化し、エチレン重合体分子間に、架橋助剤が入った形の架橋結合が生成するものと見られる。」(同号証2頁右上欄14行~左下欄1行)、「本発明におけるエチレン重合体とは低密度又は高密度ポリエチレンであり、エチレン共重合体とはエチレン-ブテン、エチレン-酢酸ビニル等の如きエチレンを主体とする共重合体である。本発明における架橋剤はジタ-シヤリ-ブチルパーオキサイド、1,3ビス-(タ-シヤリ-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(タ-シヤリ-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイドの如き有機過酸化物・・・などであって、」(同頁右下欄9~20行)との各記載があって、ペルオキシドからなる架橋剤と架橋助剤であるトリアリルイソシアヌレートを用いてEVAを架橋すると、トリアリルイソシアヌレートが該共重合体間に入った形の架橋結合を形成することが記載されているものと認められる。
(4) そうすると、プラスチック実用便覧及び特開昭49-128063号公報の前示各記載に照らして、EVAに、ペルオキシド架橋剤及びトリアリルイソシアヌレートを加えて加熱架橋する製造方法において、トリアリルイソシアヌレートがEVA間に入った形の架橋結合を形成し、EVAとトリアリルイソシアヌレートからなる架橋物が生成すること、すなわち、該製造方法によって生成した引用例記載の透明膜は、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)であると解するのが相当であって、引用例には、実質的にEVATが記載されているものと認められる。
(5) 原告は、プラスチック実用便覧の記載につき、反応機構が確実なものとして記載されていないとし、さらに、そこに示された反応機構の例が、ポリマーをEPRとするものであること、アリル系のトリアリルイソシアヌレートの反応性が低いこと等を挙げて、トリアリルイソシアヌレートとEVAとの反応機構は自明といえるものではないと主張するが、前示のとおり、プラスチック実用便覧には、多官能基からなる架橋助剤が高分子間に入った形の架橋結合を形成する点が、一般的で、かつ、相当程度の確実性を有するものとして記載されていることが認められるから、原告の該主張は失当である。
また、原告は、I第1実験及びI第2実験の結果により、EVAにトリアリルイソシアヌレートを添加し、引用例の実施例1に記載された方法で成形しても、トリアリルイソシアヌレートがEVAと反応していないことが確認されたと主張する。
しかしながら、引用例には、「実施例1」として、「エチレン-酢酸ビニル共重合体・・・100部、ジクミルパーオキサイド1部及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部をブレンドし、押出機又はカレンダー法により0.4m/m厚の両面エンボスシート(幅900m/m)を作成した。・・・さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋を行ない、透明でかつ白板ガラス、ステンレス板とも強固に接着したモジュールを得た。」との製造方法の記載があるほか、「本発明の封止用組成物はEVA樹脂と上述の添加剤とを混合し、押出機、ロール等で混練された後カレンダー、ロール、Tダイ押出、インフレーション等の成膜法により所定の形状に成膜される。」と記載されていることは前示のとおりであるから、実施例1の製造方法の「エチレン-酢酸ビニル共重合体・・・をブレンドし」との記載は、実際には、各材料を混合し、押出機、ロール等で混練することを意味するものと解されるところ、昭和50年1月20日第2版第4刷発行の大阪市立工業研究所プラスチック課編纂「実用プラスチック用語辞典」(乙第11号証)には、「混練」の語義につき、「プラスチック材料に数種の添加剤を混ぜ合わせる場合、材料を加熱溶融させると同時にせん断力を与え、添加剤を材料内部に均一に分散させること」(同号証183頁右欄16~18行)との記載があり、昭和62年2月15日9版発行の「プラスチックス」編集部編「プラスチック活用ノート」(乙第12号証)には、EVA樹脂の融点が65~90℃であることが示されているから(同号証55頁、なお、該文献は、本願出願後に発行されたものであるが、その記載内容に照らし、当業者に周知である事項をまとめたものと認められ、該EVA樹脂の融点は、本願出願当時においても周知であったものと推認される。)、引用例の実施例1の方法においては、各材料をブレンド、すなわち、65℃以上に加熱して押出機、ロール等で混練した後、押出機又はカレンダー法により前示両面エンボスシートに成膜し、さらに150℃、30分の加熱架橋を行なったものと認められる。
しかるに、I第1実験に係る報告書(甲第5号証)には、「引用例の方法」として「配合物の混合を常温で行った」(同号証3頁3行)ことが、また、I第2実験に係る報告書(甲第6号証)には、「引用例の方法」として「配合物の混合を30℃にてロールミルで10分間混合で行った」(同号証3頁1~2行)ことが、それぞれ記載されており、これらは、前示引用例の実施例1に係る製造方法と符合していないことが明らかであるから、I第1、第2実験の結果が、前示認定を左右するに足りるものということもできない。
(6) したがって、審決が、「引用例には、エチレン酢酸ビニル重合体に、多官能性架橋助剤として、トリアリルイソシアヌレートを用いる・・・発明が記載され、これは、本願第1発明のエチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)に、一致するものであり、」と認定したことに誤りがあるということはできない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 被告は、審決が本願第1発明と引用例記載の発明との「一応の相違点」であると認定した「本願第1発明のものが、『ヘイズ値0.6以下を有することを特徴とする透明膜である』としているのに対し、引用例にはこの点が明示されていない点」について、引用例に、本願第1発明のものと同一の成分組成、配合割合、製造方法により透明膜を製造する方法及びその製品自体が記載されているに等しく、引用例には、ヘイズ値0.6以下を示す物が含まれており、本願第1発明は、引用例に開示された材料のうちトリアリルイソシアヌレートを含むものについて実施して得られた透明膜のヘイズ値が0.6以下であることを単に確認したものにすぎないと主張するので、その当否につき検討する。
(2) 平成10年4月1日付手続補正書(甲第3号証)による補正後の本願明細書(甲第2号証)(以下単に「本願明細書」という。)には、「EVATに使用するEVAの酢酸ビニル含有率は15~50重量%であり、」(甲第2号証6欄32~33行)、「EVATの構成において、EVAに対するトリアリルイソシアヌレートの割合は、EVA100重量部に対してトリアリルイソシアヌレートが0.5~20重量部であり、」(同欄41~43行)との各記載があるほか、「実施例1」として、「(a)第1表に示す通りにEVAとトリアリルイソシアヌレートを主成分として各成分を約80℃に加熱したロールミルにて混合してEVAT樹脂6種を調製した。(b)プレスを使用してポリエチレンテレフタレートフィルム間に上記の各EVATを挟んで厚さ0.38mmのシートを作製した。放冷してシートが室温になった後ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、ついで予め洗浄乾燥した厚さ3mmのフロートガラス2枚の間にEVAT樹脂シートを挾み、これをポリエチレンテレフタレート製の袋に入れて真空脱気し、約80℃にて予備圧着する。その後、予備圧着された合せガラスをオーブン中に入れて大気圧でガラスの表面温度が150℃に到達した時点より15分間加熱した。」(同号証8欄10~22行)との記載があって、該第1表(同号証4~5頁)の「本発明」欄1~6には、EVAの酢酸ビニル含有率が25~28%、トリアリルイソシアヌレートのEVAに対する重量比が2/98(約2.04%)~5/95(約5.26%)であり、EVA及びトリアリルイソシアヌレートのほかに、ジクルミパーオキサイド又は2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(いずれもペルオキシドである。)及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(前示のとおり、接着促進剤である。)を加えることが示されている。本願明細書(甲第2、第3号証)上、前示各記載(第1表の「本発明」欄1~6の記載を含む。)のほかに、本願第1発明のものの具体的な製造方法と認められる記載はない。
他方、引用例(甲第4号証)には、組成及び配合割合に関し、「本発明に用いられるEVA樹脂としては酢酸ビニル含量が5~50%、」(同号証2頁右下欄19~20行)、「通常EVA100重量部あたり・・・多官能架橋助剤としては・・・トリアリルイソシアヌレート・・・が0.1~10部・・・用いられる。」(同号証3頁右上欄20行~右下欄11行)との各記載がある。また、製造方法に関し、「本発明の封止用組成物はEVA樹脂と上述の添加剤とを混合し、押出機、ロール等で混練された後カレンダー、ロール、Tダイ押出、インフレーション等の成膜法により所定の形状に成膜される。」との記載、及び「実施例1」として、「エチレン-酢酸ビニル共重合体・・・100部、ジクミルパーオキサイド1部及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部をブレンドし、押出機又はカレンダー法により0.4m/m厚の両面エンボスシート(幅900m/m)を作成した。・・・さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋を行ない、透明でかつ白板ガラス、ステンレス板とも強固に接着したモジュールを得た。」との記載があるところ、その混練工程に関し、周知事項を併せ考えれば、65℃以上に加熱して押出機、ロール等で混練するものであることが、実質的に記載されているものと認められることは前示のとおりである。しかしながら、該混練時の温度については、65℃以上に加熱することは引用例に実質的に記載されているということができるものの、例えば、80℃というような具体的な特定の温度が、実質的に記載されているものと認めるに足りる証拠はない。
(3) そうすると、引用例に記載された発明のうちには、本願第1発明のものと同一の成分組成、配合割合、製造方法により透明膜を製造する方法及びその製品(そのような透明膜であれば、0.6以下のヘイズ値を有するであろうことが推認される。)が含まれているということはいえるものの、それのみではなく、トリアリルイソシアヌレートを用いるもののみを採り上げてみても、本願第1発明のものと同一とはいえない配合割合、製造方法により透明膜を製造する方法及びその製品(そのような透明膜が、0.6以下のヘイズ値を有すると即断することはできない。)をも含んでいることは明らかであり、さらに、混練時における温度についても実質的に異なる(65℃で混練された透明膜が、0.6以下のヘイズ値を有すると即断することはできない。)ともいえるので、そうであれば引用例に記載されたエチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を主成分とする透明膜について、そのヘイズ値を0.6以下に限定したものとして解することができないことは明らかである。
したがって、前示「一応の相違点」について、「本願第一発明のへイズ値0.6以下を有することとは、・・・トリアリルイソシアヌレートをエチレン、酢酸ビニルとともに用いることによって、得られるものであることが明らかである。とすると、・・・本願第1発明と同一の組成であるトリアリルイソシアヌレートをエチレン、酢酸ビニルとともに用いる引用例記載の発明と実質的差異はなく、ヘイズ値の記載の明示の有無だけで、別発明とすることはできない。したがって、上記一応の相違点は実質的な相違点とはいえず、」とした審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。
3 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)